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フィンランド人がヴィンテージ食器を買う6つの理由


フィンランドのヴィンテージデザインの魅力は、外見だけではありません。

1884年から2015年に至るまで、Arabia(アラビア)はフィンランドを拠点に幾千もの陶食器のモデルと装飾品を生産してきました。Iittala(イッタラ)、Nuutajärvi(ヌータヤルヴィ)、Riihimäen Lasi(リーヒマエンラシ)のガラス製品も、フィンランドの食卓とコーヒーテーブルの中心的存在であり続けました。そして今日でも、フィンランド人は廃盤や中古、およびヴィンテージの食器シリーズを熱心に探しては購入しています。それはなぜでしょう?


1. フィンランドデザインの歴史は、万人により良い未来を築く物語

フィンランドデザインの黄金時代は、第二次世界大戦後、1945年から1967年まで続きました。この頃にフィンランドは、戦後の経済困難と社会的課題に喘ぎながら、最も重要なデザイン国の一つに浮上しました。

当時のフィンランドのデザイナー達は、とても大きな課題に直面していました。戦後、フィンランドは戦争で失った地域から約43万人のフィンランド難民を再居住させなければなりませんでした。当時のフィンランドの総人口は380万人弱、つまり、人口の約1割に新しい住居を提供しなければならなかったのです。そのうえ、フィンランドは敗戦国として重い賠償金を支払うことが要求されました。そのような、ただでさえ資源が不足していた時期に、多くの世帯の為に食器生産が余儀なくされました。

昔ながらのフィンランドの台所で食器乾燥棚に皿を置く場面
昔ながらのフィンランドの台所で食器乾燥棚に皿を置く場面

フィンランドの都市化は、デザイナー達に、さらに家屋の小型化と女性の社会参加の増加という新しい課題も与えました。その結果、保管場所も狭くなり、家事の時間も短縮されたため、食器の保管と耐久性、および洗浄に関して、より機能的かつ革新的な新しい解決策が必要となりました。ArabiaのKilta(キルタ)の幾何学的な形は、その変化を表す一つの良い例です。

当時のフィンランドデザインを後押ししたのは、平等、ウェルネス、及び美しい日常使いのアイテムを万人に提供したいという、民主主義的な理想主義でした。やがてデザイナー達の奮闘は、新しい実用的なデザインがフィンランドの主婦層に熱く歓迎されたことで実を結びます。まるでダイヤモンドが強い圧力の下で形成されるように、フィンランドデザインも、膨大な課題の下で、力強い解決策として生まれたのです。


2. 国際的に高く評価されたフィンランドデザイン

近代フィンランドデザインが国際的な躍進を遂げたのは、1951年のミラノ・トリエンナーレ(イタリアのミラノで開催される美術展覧会)でフィンランドが6つのグランプリ賞を受賞した時でした。当時のフィンランド人が熱烈に歓迎した新しい食器類の数々が、その斬新なデザインとスタイリッシュな解決策とともに、海外で大きな注目を集めたのです。それ以来、フィンランドデザインの代表作は、国際的に広く認知されるようになり、モダンなスカンジナビア国としてのフィンランドのイメージを強化しました。

フィンランドデザインは、さらにその後の数十年間で数々の国際的な賞を受賞し、より広く知られるようになりました。受賞したデザインや製品、デザイナー達は、アラビアの磁器工場、フィンランドのガラス工場のIittala、NuutajärviやRiihimäen Lasiおよび、その他のデザイン分野から輩出されました。60年代と70年代のフィンランドデザインの受賞歴は、1967年のモントリオール万国博覧会のBirger Kaipiain(ビルガー・カイピアイネン)に授与された金賞、1970年にOiva Toikka(オイヴァ・トイッカ)に授与された、北欧のデザイナーを対象とした最も権威あるルニング賞、1971年にイタリアのファエンツァで開催された陶器ビエンナーレでPeter Winquist(ペーテル・ヴィンクヴィスト)に授与された金賞などです 。

Ruskaシリーズを用いたテーブルセッティングで夕食の準備
Ruskaシリーズを用いたテーブルセッティングで夕食の準備

70年代と80年代には、欧州市場が自由貿易に開放され、石油危機により生産コストが増加しました。フィンランドのデザイン企業は、生産性と材料を改善し、国際的に認知されている高いクオリティを維持することができました。当時はフィンランドの多くの小さなデザイン企業が合併もしました。一例として、1988年にNuutajärviとIittalaが一つになったことが挙げられます。この傾向は今日でももちろん引き継がれており、フィンランドと北欧のテーブルウェアブランドに顕著です。例えば現在、Arabia、Rörstrand(ロールストランド)、 Royal Copenhagen(ロイヤルコペンハーゲン)、Iittala、Hackmann(ハックマン)、Fiskars(フィスカース)は全て同じFiskars Group(フィスカースグループ)の傘下にあります。

ArabiaとIittalaの大部分の生産は、20世紀の終わりに向けて徐々に海外にシフトしていきましたが、雑誌”Economic Research, Marketing and Advertising”の年次調査によると、これらのブランドは、一貫してフィンランドで最も価値のあるトップ10ブランドの地位を維持し続けています。

20世紀末のデザインにおける最も重要かつ、新しく登場した傑作の一つは、ムーミンマグです。ムーミンのマグカップは、世界的に有名な芸術家、トーベヤンソンのイラストや物語をもとに90年代から製造されています。1990年に国際的なヒットしたアニメ『ムーミン』のおかげで、ムーミンマグも瞬く間に大ヒットとなります。生産中止または限定版で生産されたムーミンのマグカップは、とても人気のコレクションアイテムになりました。ムーミンの中古マグとヴィンテージマグは、通常、新製品よりもはるかに高い値段がつきます。


3. 活力とインスピレーションの源として「自然」が多く採用されたフィンランドのヴィンテージデザイン

自然は、実に若い時からフィンランド人の生活において、とても重要な役割を果たします。自然とは、フィンランド人にとって「バッテリーを充電する」ような場所です。とりわけ、自然への即時のアクセスがほとんど、あるいはまったくと言っていいほどない都会の居住者たちにとっては、何らかの方法で自然を日常生活の中に取り入れることが重要です。この課題への一つの解決策は、自然から着想を得たデザインであり、これがほぼ偶然にも、フィンランド人の深い欲求を満たしているのです。

Runo Kesäsädeシリーズが特徴的な自然をモチーフにしたテーブルセッティング
Runo Kesäsädeシリーズが特徴的な自然をモチーフにしたテーブルセッティング

自然をテーマにした力強い装飾とヴィンテージデザインの形は、特にフィンランド人を魅きつけます。北欧の自然は、フィンランドのデザイナーにとって常に豊かなインスピレーションの源です。ガラスデザインでは、例えば北極圏の氷の形成が、iittalaのUltima Thule(ウルティマ ツーレ)などの彫刻的でオーガニックな非対称の形の創造に影響を与えています。

装飾には、シンプルな色の釉薬から、繊細な手描きの自然主義的な模様まで、実にさまざまなものがあります。その何百もの模様は、フィンランドの風景に見られる植物や色、雰囲気などに触発されており、多忙な都市の人たちにも、コーヒーテーブルや食卓を囲んでいる間に、自然とのつながりを感じさせるものなのです。多くのシリーズ名も、自然を想起させるものです。Meri(メリ、海)、Anemone(アネモネ)、Ruska(ルスカ、秋の色)、Flora(フローラ、植物相)やFauna(ファウナ、動物相)などがその良い例です。


4. わかち合うひと時の幸せ––テーブルセッティングが日常生活や特別な日にももたらす「美」

私たちフィンランド人にとって、ホスピタリティ、つまり、おもてなしの精神はとても大事です。私たちはお祝いのためにテーブルを特別素敵にセッティングして、お客様を迎えることが大好きです。お祝いの機会にふさわしいデコレーションと色の食器をテーブルに並べます。美しい食器は、招待する側にも喜びをもたらします。フィンランド人は伝統的に、特別な行事、日曜日のごちそうや来客時のための特別な食器のセットを持っていますが、大きなパーティーを開くことが難しい現代の小さな家屋では、厳選されたヴィンテージ食器が毎日の食卓に喜びをもたらし、特別な日には、その日常使いの食器にお客様用を加えたり、組み合わせることでお祝い気分を盛り上げる役割を果たします。

ArabiaのTVセットを用いた心温まる食事
ArabiaのTVセットを用いた心温まる食事

最も大事な家族のお祝い事も、毎日の小さなひと時においても、家族はいつも、同じ食卓とコーヒーテーブルで一緒に過ごします。上手に保存され、手入れが行き届いている食器類は、母から娘の手に完璧な状態で受け継がれ、子ども時代の生活様式や食器類は、温かい思い出を想起させます。クオリティの高いフィンランド食器は比較的高価ですが、フィンランド人は品質に投資し、毎日の生活様式を美しくする努力を惜しみません。フィンランドでは、自宅用の食器シリーズは少しずつ集めることが一般的であり、伝統的に食器は、結婚式や卒業式、誕生日パーティーなどの特別なお祝いのプレゼントとして贈られてきました。


5. 「美しいフィンランド家屋に欠かせない要素」としての食器

フィンランドでは、美しい食器は家の宝であり、家のスタイルの一部と考えられているので、食器のチョイスは、インテリアデコレーションの重要な一部と見なされます。食器はよく、家屋の年代に合わせて選ぶので(フィンランド人は好んで味がある中古物件に住む人が多い)、ヴィンテージ食器は多くのフィンランド人にとって、ごく自然な選択です。インテリアデコレーションとテーブルセッティングのトレンドは時代とともに変化しますが、スタイルは通常ファッションの循環の中を回ります。

エレガントな色合いのお祝い用のテーブルセッティング
エレガントな色合いのお祝い用のテーブルセッティング

今は、60年代と70年代の大胆な模様と明るいポップカルチャーの色の食器が流行しているようです。多くのデザインは非常に人気があるためレトロデコレーションと呼ばれ、再生産されています。

フィンランド人は、形、素材、及び模様の調和を作り出す、デザイナーのオリジナルの構想に大きな価値を見出します。レトロデザインの新製品は、オリジナルの「フィンランド製」の製品とは若干異なる場合があります。かつてフィンランドの家庭で使われていたシリーズの多くは廃盤になり、特に手描きシリーズは生産すらされていないため、フィンランド人はこれらを良好な状態のヴィンテージ品として購入する道を選びます。壊れたアイテムの代わりを中古で買い足す方が経済的でもあるのです。


6. 自然を守る、サステイナブルな買い物のしかた

豊かな自然は私たちフィンランド人にとって最大の資産です。ゆえにフィンランドは環境保護とリサイクルの世界的なリーダーでもあります。環境保護は、道徳的な消費主義における最も大きな課題の一つです。フィンランドの子どもたちは、既に小学校で、倫理的な消費活動の中で最も重要なことの一つは、自然に対する負担を最小限に抑えることだと教えられています。

収穫前のフィンランドの夏の田畑
収穫前のフィンランドの夏の田畑

自然に対するやさしさという観点からも、新しい食器の生産は多くの天然資源を消費するため、ヴィンテージ食器を使用したり購入することは賢明です。食器、特にセラミックは、主に非生分解性でリサイクルできない廃棄物です。よって食器の寿命は可能な限り長く保たれるべきなのです。

環境への影響を配慮することで、新しい食器の生産コストが実際の価格をはるかに上回ることがあります。使用済みのヴィンテージの食器は、現行品よりも価値があり、高い値段がつくことが多く見受けられます。


あとがき

この記事は、アスティアリーサのヘルシンキ店を訪れた、とある日本人女性から「なぜフィンランド人はヴィンテージ食器を買うのが好きなんですか?」ときかれた後に書いたものです。私がその質問に答えると、彼女は1962年から1976年の間に作られたArabiaのコスモスシリーズのティーカップとパン皿を購入したのですが、50年以上経過しているとは思えないほどのヴィンテージ食器の状態の良さには驚嘆し続けていました。私はこれまでにも同じ質問に何度も答えてきましたが、どういうわけか彼女からの質問が深く私の心に残り、フィンランド人がヴィンテージ食器を愛する理由は、もっとたくさんあるという結論に至りました。

このトピックについてさらに深く考えていくと、私はフィンランドの歴史をなぞるようになりました。歴史はフィンランドのデザインとその評価にも影響を与えていると考えたからです。フィンランド人は、フィンランドデザインに表されている価値観で結ばれています。フィンランドデザインは、フィンランド人が幸福を追求する歴史の中で変わりゆくニーズに応え続けてきました。ご存じですか?フィンランドは2019年の国連の世界幸福度報告書において、2年連続「世界で最も幸せな国」にランクインした国なのですよ。

出典

『未来の建築者、フィンランドデザイン 1945-67年』デザイン美術館、ヘルシンキ、2012年

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